KAJU BLOG....2024 7 monthly
熊本県健軍の地で33周年を迎えるアントルメ菓樹が、
この度「KAJU BLOG」という企画を始めることとなった。
各地取材に赴き、公式Instagramや公式ホームページとはまた違う角度から、
菓樹商品の魅力をお伝えしていこうという企画だ。
KAJU BLOG....2024 7 monthly
熊本県健軍の地で33周年を迎えるアントルメ菓樹が、
この度「KAJU BLOG」という企画を始めることとなった。
各地取材に赴き、公式Instagramや公式ホームページとはまた違う角度から、
菓樹商品の魅力をお伝えしていこうという企画だ。
肌寒さが幾分和らいだ4月某日。
記念すべき第一回目の取材地として選ばれたのは、阿蘇。
熊本県の東部、大分県・宮崎県との県境近くに位置しており、
年間を通して国内外から数多くの観光客が訪れている自然豊かな土地である。
アントルメ菓樹本店から車で移動すること約1時間。
窓の外に広大な自然とのどかな時間を感じながら、待ちに待った取材がスタート。
「火の国」熊本を象徴する阿蘇山は、世界最大級のカルデラと雄大な外輪山を持ち、
その麓には、風光明媚な景色が広がっている。
阿蘇の道は、カーブが多く、上り下りが激しい。酔いにくい体質で非常に助かったかもしれない。
片側一車線のすこし狭い道路の脇には、簡易的な柵が建てられており、はて何のために……
と訝しんでいると、すぐに牛馬がゆったりとした風貌で現れた。
柵の向こうで、強い風が馬の鬣としっぽを揺らす。
土に寝そべっていたり、草を食べていたり、ぴたっと2匹でくっついていたり、なんとも自由気ままなものだ。羨ましい。
道中寄り道した南阿蘇の道の駅「あそ望の郷」では水車が回っていた。
いつの時代も、土地を豊かにし、作物を育ててくれるのは水なのだ。
道の駅の裏側は展望デッキのような造りになっており、ごつごつとした肌の山を望むことができた。
麓には民家が点在していて、確かにこの自然と共生する人々がいるのだと感じる。
その風景を楽しみながら、中年男性たちがソフトクリームを頬張っていた。
ツーリング仲間だろうか。素敵な光景だ。
姉妹店のスタッフが激推しだと教えてくれたスパイスカレーと、
阿蘇といえばの濃厚なミルクソフトクリームをあっという間に胃に収め、
おなかも心もすっかり満たされた取材チームは、
もう帰りますかなんて冗談を言い合いながらも、次の目的地へと向かった。
阿蘇山の南嶺に位置する白川水源。
熊本市街地を潤し、有明海へとつながる一級河川の水源である。
環境省の名水百選にも選出されている。
喫茶店やお土産店も併設されており、年間多くの人が訪れる。
木々が遊歩道にそっと影を落とし、そのすぐ傍を至極透き通った川が流れている。
その底を流れる小石の動きまでしっかり見ることができた。
二十余年生きてきて、間違いなく一番の清澄さ。美しい。
近頃は半袖でないと汗をかく気候だというのに、この場所は肌寒さすら感じる涼しさで、
羽織れるものを持ってこなかったことが少し悔やまれた。
太陽が跳ね返り、思わず目を細めてしまうほど眩しく光る水面を、
あめんぼや小魚、落ち葉が優雅に泳いでいる。
気持ちよさそうだ。童心に返って、思わず飛び込みそうになる。もちろん理性で踏みとどまったが。
そっと手を入れてみると水はひんやりしていて、皮膚がギュッと引き締まる感じがした。
白川水源の水温は、1年を通して約14℃だという。
「マイナスイオン」と辞書で引いたら、きっとこの場所が出てくるに違いない。
犬を連れた人、異国の言葉を話す人、写真を撮る人……
この地に住む人々も、観光に訪れた人々も歩くこの空間を、終始穏やかな時間が支配していた。
悩みや煩わしさなど、そこにはなかった。
歩を進めていくと、年月を感じさせる石の鳥居が姿を現した。
奥の社殿まで、まっすぐ参道が伸びている。
白川吉見神社。古代から、白川水源の守護神として崇め奉られてきた。
元禄14年(1701)当時の藩主細川綱利公が参拝して、正殿の修造を郡代(地方官)に命じて、
修理費として特別の手当を給わったというエピソードもあるほど。昔の人々の尊崇ぶりがよくわかる話だ。
小さな石段や石橋があちこちに掛けられていて、その脇を覗き込むと、これまた透き通った水が静かに佇んでいた。
それらを囲うように木々が生い茂り、秘所めいた雰囲気が漂っている。
近づくだけで身体のエネルギーがチャージされるような、そんな気がした。
空のペットボトルを持ち、水杓子と漏斗を使って水を汲んでいる人たちもいる。
湧き水を持ち帰り、飲料水として飲むことができるらしい。
日本の数々の名水はほとんどが軟水であり、口当たりが軽いのが特徴だが、
その中でも白川の軟水は比較的硬度が高く、飲みごたえがあるとされている。
そういえば、鳥居をくぐる前に空のペットボトルが販売されていた。
このためだったのか。買っておけばよかった。
次回来たときは絶対空のペットボトルを用意しようと固く決意した。
参道をはずれ奥に進むと、より一層神秘的な空気をまとっている空間があった。
木陰から漏れる日光を反射した水面が、ゆらゆらと風で優しく揺れている。
やっぱり水は恐ろしいほど透き通っていて、水底の砂利と、青々とした苔まではっきり目視できた。
しかしよく見ると、一か所青色に光っている。
ブルートパーズを彷彿とさせる光沢で、そこだけ苔が生えていないのに気が付いた。
あれっと思った瞬間、まるで鍋で湯を沸かしているように、底の砂利を噴き上げながら、ぼこぼこと水が湧き出ていた。
大きな音がするわけでもなく、体の何十倍も大きいわけでもなく、
ただ静かに目の前にで繰り広げられている光景なのに、圧倒されてしまった。
そうか、この場所こそが「水源」と呼ばれる場所なんだ。まさに読んで字の如く。
荘厳というべきか、摩訶不思議というべきか、静謐というべきか、
でもどの言葉も少し足りないような気がする。ただ間違いなく言えるのは、この目で見れてよかったということ。
阿蘇では、約27万年前から約9万年前にかけて4回の大火砕流噴火が発生した。
その火砕流が厚く降り積もって、隙間に富み水が浸透しやすい地層が出来上がった。
年間降水量約3,000mmにものぼる、阿蘇に降り注ぐ雨が、その天然のフィルターを縫うようにゆっくりゆっくりと流れ、
気の遠くなるような時間をかけて磨かれ、湧水となる。
白川水源では、毎分約60トンもの水を噴出している。
古くから枯渇しない水源とされ、飲料水として、農業用水として、
熊本の人々の暮らしを支えてきた。
現代でも、
「蛇口をひねればミネラルウォーター」
熊本市内の水道水はすべて地下水で賄われている。
その地下水は阿蘇に複数ある水源からやってきており、そのうちのひとつが、まさに、白川水源なのだ。
アントルメ菓樹では、白川水源の湧水を使用したジュレを販売している。
もちっとした不思議な食感と、付属のきな粉と黒蜜の優しい甘さがやみつきになる。
きらきらと白川水源のように輝く透明なジュレは、菓樹にしかない。
実際に白川水源に取材として訪ね、そう感じたのだった。